平成22年、父が他界してから平成29年までの7年間、私は母を自宅で介護しました。
その体験と教訓をまとめましたのでお話しさせていただきます。
参考になれば幸いです。
認知症に効く薬はない!
私の母は平成20年から認知症の兆候がありました。
母の言動がおかしいと感じた父は病院に連れていき、診断してもらった結果、軽度の認知症と診断されました。
それ以後、私は父と一緒に病院に月一ぐらいの割合で連れて行っていました。
診察方法は毎回問診によるもので、「今日は何月何日?」「季節は?」という簡単な質問です。母はいつもそれに答えられずに診察を終え、最後に薬をもらって帰ってきました。
薬は毎日服用するのですが、その甲斐なく母の認知症はどんどん進んでいきました。
医師が言うには、認知症の薬はないということ。
飲んでも認知症は改善されることはありません。
しかし進行を遅らせるということができるのです。 と。
しかし遅れている気配もなく、認知症はどんどん進み、物忘れは甚だしく、何回も同じことを言ったり、物がなくなるとあの人が盗んでいったなどと言う、認知症特有の症状は日増しに強くなるばかりでした。
こんな治療を続けて本当にいいのだろうか?
私は疑問に思い始めました。
母への言葉が荒くなる
父と母は二人暮らしで、父が母の介護をしていたのですが、平成21年父は肺炎を患ったため介護が難しくなり、私が通いで父の代わりをするようになりました。
そして平成22年父は他界し、それ以後私が一人で介護することになるのですが、最初のころは認知症も軽度で介護もそれほど大変ではなかったのですが、年を追うごとに認知症は悪化してきました。
当時の私は認知症患者への対応について知識が全くなく、母の行動に気に入らないところがあると怒り、きつい言葉を浴びせていました。
そんな私の言葉に対して母は不快をあらわにし、怒ってしまうことがしばしばでした。
今思えば、母への対応はもっと優しくするべきだと思います。
しかしその頃は、慣れない介護で精神的にくたくたになり、そんな余裕はなかったのです。
毎日がぎりぎりの状態で、私が何とかしなければと気負っていました。
それが悪かったのでしょう。
母の気に入らぬ行為に対して私は常にイライラし、怒っていました。
しかし母はどうかというと、認知症ゆえ私から怒られたことなどすぐに忘れてしまい、数分もたつと何もなかったかのように私に話しかけてきます。
これは認知症が幸いしているのですが、ただ一つ気掛かりなことがありました。
それは母の表情にありました。
母に笑顔がない!
それは母に笑顔が見られないということでした。
あれほどいつもニコニコ笑っていた母の顔から笑顔が消えていたのです。
これは私のせいかもしれない!
そう思ったのは、母がショートステイでお世話になっている特養を訪れた時のことです。
すでに入所している数人の高齢者の方の顔を見た時、私は驚きました。
なんと全員が無表情なのです。
喜怒哀楽が全くない、それどころか感情さえもないのかと思えるほど無表情でした。
驚きを通り越して、怖さを覚えました。
なぜそうなったのか?
私は叔父から聞いた話を思い出しました。
叔父の家の近所に認知症の親をもつ家族がいたそうです。
その子供は認知症の親の行動に腹を立て、逐一注意をし怒っていたそうです。
いつしかその親の顔から笑顔も感情もすべて消え、無表情になったということです。
私は愕然としました。
まさしくその行為は、今私がしてる介護と全く同じ。
これは改めなければならない!
本当に大切なのは被介護者の笑顔
私はこの時より、何より母の笑顔を重要視しました。
そのためには、母への想いを正すことでした。
やさしい波動を母に送ろう。
やさしい言葉を母にかけよう。
そして笑顔で接しよう。
できる限り母にやさしい波動で接しました。
しかし人間ですからそれができないときもありました。
それは決まって疲れが溜まってイライラがつのり、感情が抑制できないときです。
なら、疲れが溜まらないようにするにはどうすればいいか?
出した答えは、介護に手を抜くということです。
つまり介護は、ほどほどにしておくということです。
相手のことを思い、完璧に近い状態で行う介護は理想です。
しかし完璧を期すあまり、それが疲れの原因になるのは本末転倒です。
完璧な介護であっても、被介護者から笑顔がなくなっては何にもならない。
むしろいい加減な介護であっても、やさしい心で接する方が被介護者にはいいのではないか。
それが私の出した結論でした。
表情豊かな母の顔に戻って
ある日、叔父(母の弟)さん夫婦が、自宅に母を見舞ってくれました。
母の表情をみて驚いていました。
近所にいた無表情の認知症の方と比較して、「全然違う」と。
介護者の波動は被介護者に影響を与えます。
介護者が被介護者に愛情をもって接したら、被介護者の表情が豊かになります。
これは私が介護をして得た教訓です。
介護にはテクニックや要領もあるでしょうが、少々不器用でも、へたくそでもいいというのが私の持論です。
その波動に愛情さえあれば、被介護者の表情は豊かになるのです。
被介護者の表情が無表情にならないために、介護にはやさしい波動をもって行うことが最も大事なことだということを、私は母の介護を通して学びました。